『戦争が終わったらどーする?』

情事のあとの、けだるい体に降り注ぐ声。

『どう…って…』

口を開くのも本当は面倒なほどに眠くて。

隣りに誰かの温もりを感じながら眠るのは久々だ。


『ん〜、したいこととかあるのかな〜と』

マリューの栗色の髪の毛をくるくると指に巻き付けながら、ムゥがほほ笑んだ。



戦争が終わったら。



激化すれど、沈静へ向かう兆しなどカケラも見えない今、それは、ひどく浮いた言葉に聞こえる。


『戦争が終わったら…』

何も浮かばないのは、今のこの眠気のせいだろうと自分をごまかす。


『俺はさ、そうだな、うーん。 前にあった教官の話もいいよね』

『カリフォルニアの話ですか?この間の?』

上層部は彼を前線から外そうとした。

二つ名をつけられる程の優秀なパイロットだものね。

『あの時も言いましたけど、とてもいいことだと思いますよ。 あなたが教えれば前線で助かる命が増えるわ』

心からそう願う。

『そだねぇ。まぁ、どこまで教えられるかわからんけどな〜』

くったくなく笑う、その笑顔になぜか泣きたくなった。



『戦争が終わったら…』




ふいに声が低くなる。

まっすぐに私を見る青い青い瞳。

『ね、マリュさん、戦争が終わったら…おれと…っ…ふっ』

『…お願い。それ以上は言わないで』

つい、彼の口をふさいでしまった、

『…やだ?』

肩をすくめる仕草が、あまり怒った風でないことに安堵する。

『いや…じゃないと思うわ』

平和な世界で、あなたと一緒に毎日暮らせたら。

『じゃあどうして?』


『怖いのよ。夢を見て、その夢に溺れて現実が見えなくなるのも、 その夢が破れて足下が崩れて行くのも』


『夢をみるのはいや?』

あくまで軽い言い方は彼の優しさの表れ。

『いやよ』

『現実が大事?』

『…夢を見る弱い女にはなりたくありません』




細い肩が震えていた。

軽いピロートークのつもりが、ずいぶんと重くなってしまった、と自嘲する。

『艦長だもんな』

彼女は、自分には荷が重いといいながら、懸命にその任を背負っている。

いつか折れてしまいそうで。



『もちろん、それもあるけど…』

にっこりと気丈に笑ってみせる彼女。

先ほどまで震えていたのに。



『強いんだね』



『そうよ』



そう言って欲しいんだろう?


わかっていて、心にもない言葉を言う。


『でもね、マリューさん』

起き上がろうとする体を抑え、目を合わせる。



…そのペンダントの男とどんな夢を見ていたの?

喉元まででかかったコトバを飲み込んで。

『夢は見てもいいんだよ。

 甘い夢を見て、叶うのをただ待ってるだけじゃダメだけど』




甘い夢に浸って、傷ついて。




誰もがその道を通るんだ。



『でも…』

何かを言いかける彼女の唇を自分のそれでふさぐ。


『目を開けて、夢を見ればいい』


『目を…開けて…?』


『そう。たどり着くために何をすればいいのか、ちゃんと目を開けて見て。』




過程のない、結末だけの甘い夢に浸れるほど優しい世界ではないから。




『…叶わない夢に傷つくのは…もう…』


彼女の瞳が伏せられた。


やはりね、とムウは一人ごちる。


…俺が言った台詞を、あいつにも言われたんだろ?


そして、帰ってこなかった。






『誰かと見る夢はきっとまた…』



語尾が揺れる。




『…夢は棘だらけで痛いものなんだよ』


初めて聞いた見解に、マリューは目を見開いた。



『傷ついて傷ついて。たどり着くからこそ、イイんじゃないか。夢ってさ。』

『…』

マリューがしがみついてくる。




『ね、戦争が終わったあとの夢を、一緒に見ようよ』




震える体をなだめるように撫でる。


『一緒に見ようよ』


たどり着くのは難しいけれど。 手ごたえがあるさ。




『一緒に…』


『そう。一緒に見よう。どうやったらたどり着けるか一緒に考えるのさ』




俺は置いていかない。



『戦争が終わったら…そうね、海の見える家がいいわ』


涙の滲む瞳が柔らかく細められる。

『お、いいね。海か。庭にプールもつけて』


『出世したのに、お給料使う暇なかったものね』




くすくす笑った拍子に、瞳の端から涙がこぼれる。




『じゃ、とりあえず…ちゃっちゃと終わらせますか』

『そうね。 そのためには…』


名残を惜しむように、もう一度抱き合って、体を離す。


『一緒に終わらせましょう?』


目を開けてみる夢は、棘だらけで、抱きしめた腕が傷だらけになってしまうけれど。


しっかり見つめて。前を見つめて。



君と一緒に。









DAY DREAM GENERATION は、馬渡さんの曲です。

歌詞がすごく好きです。 

 小さい頃に聴いた曲をこの間久々に聴きました。

すごく励みになります。 歌詞が、昔よりも理解できる感じで。


ここ数日マイテーマになっていたので(勝手に) 、タイトルをお借りして、ムウマリュにしてみましたvv